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プラナリアの自発振動からひも解く行動の適応戦略

  • 2019/12/20

Summary

プラナリアはどのようにして光を避けたり,石や落ち葉の下に隠れたりするのだろうか? そのヒントは,不規則に頭部を左右に振る自発振動にあった。光源から逃げるためには,自発振動が必要だったのだ。

 プラナリアは,扁形動物門に属する体長約数ミリメートル〜数センチメートルの水生生物で,極めて高い再生能力をもつ動物として知られている。たとえ断片に切断しても,全ての断片が1週間足らずで元通りに再生してしまう。あまり知られていないが,種の起源の著者であるチャールズ・ダーウィンやショウジョウバエを用いた遺伝学の祖であるトーマス・ハント・モーガンもその再生能力に魅了され,プラナリアの再生研究をおこなっていたことがある。近年,プラナリアは再生能力に加えて,脳機能や行動生理の基本原理を探るためのモデルとしても着目され始めている。

 プラナリアは,世界中に数百種が存在し,国内でも20種以上が確認されている。写真は,プラナリアの一種であるナミウズムシ(Dugesia japonica)で,国内で最もよくみられるプラナリアである。一見すると,くっきりとした黒目と白目のある眼が印象的である。黒目は,キョロキョロと動くことはないが,少し寄り目に見えるのもかわいらしい。自然界でプラナリアを探すには,きれいな水が流れている川の日陰になっているような場所で,川底に落ちている石や落ち葉をめくってみると,比較的簡単に見つけることが出来る。プラナリアはどのようにして光を避けたり,石や落ち葉の下に隠れたりするのだろうか? そのヒントは,不規則に頭部を左右に振る自発振動にあった。光源から逃げるためには,自発振動が必要だったのだ。不規則な振動運動が,特定の方向に移動する指向性運動に重要な役割を担っていることは,プラナリアに限らず他の生物でも観察される現象であり,普遍的な役割を担っているのかもしれない。さらに,筆者らの研究では,自発振動の角度はプラナリアの眼の傾きの角度と相関していることが明らかになっている。このことから,自発振動が眼の形態と密接に関係していることが示唆された。加えて,自発振動は落ち葉や石の窪地に隠れるための行動にも必要であることも明らかになった。驚くべきことに,自発振動の角度は光応答行動と隠れ行動という独立した2つの行動にとって最適な角度になっていたのだ。これまでノイズになってしまうと考えられていた自発的に起こる不規則な運動は,動物行動の適応性や効率のために重要な役割を担っていることが分かってきた。

プラナリアの自発振動からひも解く行動の適応戦略

学習院大学理学部生命科学 井上 武

 

(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.36 No.3 表紙より)

 

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