- 2018/12/17
Summary
コンピュータによって生成したフラクタル図形を提示すると,アカゲザル大脳基底核の尾状核ニューロンは報酬と結びついた図形には強い反応を示すが,報酬と結びつかない図形にはほとんど反応しない。
コンピュータによってフラクタル図形を生成することで,これまで動物が見たことのない多種多様な視覚刺激を作り出すことができる。それぞれのフラクタル図形は報酬(ジュース)の有無と連合しており,動物(アカゲザル)はどの図形が報酬と結びついた図形だったかを学習する。この訓練を繰り返しおこなうと,アカゲザルは実に300もの図形のうち,どれが報酬と結びついていたかを100日以上にわたって覚えることができる。この驚異的な大容量の長期記憶には大脳基底核が関与していると考えられる。大脳基底核は報酬に関連した図形かどうかを弁別しており,大脳基底核にある尾状核ニューロンは報酬と結びついた図形(Good object)には強い反応を示すが,報酬と結びつかない図形(Bad object)にはほとんど反応しない。大脳基底核は周辺視野に提示された図形が報酬と結びついた図形であれば,その図形に向かう眼球運動(サッケード)を促進する。一方,周辺視野に提示された図形が報酬と結びつかない図形であれば,その図形に向かう眼球運動を抑制する。この大脳基底核回路による促進と抑制のバランスによって,私たちは複数のものの中から「良いもの」をすばやく見つけることができると考えられる。
表紙絵は,スクリーン上に提示された9つのフラクタル図形のなかから1個だけ報酬と結びついた図形を見つけだす課題(Searching task)の遂行時に,アカゲザルの大脳基底核が働いている様子を描いたもの。尾状核(薄緑で示したオタマジャクシ状の領域)のニューロンはGood object(ジュースと結びついた図形)に対しては赤でプロットしたように高い活動頻度を示すが,Bad objectに対しては青でプロットしたように低い活動頻度を示す。この活動の違いが図形を見るか見ないかを決める眼球運動に関与していると考えられる。
National Eye Institute, NIH 網田 英敏・彦坂 興秀
(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.35 No.3 表紙より)