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繊毛虫コルポーダの休眠シスト

  • 2017/12/28

Summary

土壌性繊毛虫のコルポーダは,増殖に適した水環境中では,繊毛を使って遊泳する増殖型細胞であるが,水たまりの消失といったような生存に不適な環境が近づくと,乾燥,紫外線,凍結,高温,酸などに対して耐性を有する休眠シストになる。

 土壌表層部に生息する単細胞生物は,乾燥が近づくと,乾燥耐性などの環境耐性を有する休眠シストに形態変化することにより,陸上環境にうまく適応している。土壌性繊毛虫のコルポーダ(Colpoda cucullus)は,増殖に適した水環境中では,繊毛を使って遊泳する増殖型細胞(栄養細胞)(図a)であるが,水たまりの消失といったような生存に不適な環境が近づくと,乾燥,紫外線,凍結,高温,酸などに対して耐性を有する休眠シスト(嚢子または包嚢)になる(図b,c)。休眠シスト形成は,細胞外液のCa2+ 濃度の上昇と細胞相互の機械的接触刺激により誘導される(コルポーダは,外液のCa2+ 濃度の上昇を乾燥予知シグナルの1つとして利用している)。休眠シスト形成が誘導されると数時間以内にミトコンドリアの電子伝達系が停止し,栄養細胞に存在していた構造の分解とシスト壁の形成が始まる。完成した休眠シストは,複数層からなるシスト壁(外側より粘液/レピドソーム層,単層のエクトシスト層,数層のエンドシスト層)に囲まれて外部環境から遮断される(図c)。電子顕微鏡で観察してみると,休眠シストの細胞内には,低電子密度の不定形の物質がミトコンドリアや細胞内の構造体を取り囲むように充填されているのがわかる。これは,細胞内の分子や小器官を保護する役割を担うトレハロースのような物質である可能性が高い。ミトコンドリアはシスト細胞の表層部に凝集し,細胞内のスペースの大半は貯蔵栄養顆粒と思われる低電子密度の顆粒が占める(図c)。大核と小核は自家蛍光を発する多数の小さい粒子(核保護粒子)に囲まれる。この粒子は,紫外線から核を保護する役割を担っていると考えられている。

 適した水環境が再び出現すると,休眠シストは1時間くらいで増殖型細胞につくりかえられ,固いエクトシスト層を割って脱出する(図b)。その方法は,収縮胞由来の液胞に水を集めて膨らませ,その膨圧により物理的にエクトシスト層を破壊するという強引なやり方である。脱出直後は,栄養細胞は薄膜(エンドシスト層)に包まれているが,しばらくすると,この膜を破って栄養細胞が泳ぎだす。この一連の過程を脱シスト(脱嚢)という。

繊毛虫コルポーダの休眠シスト

福島工業高専 十亀 陽一郎・高知大学 松岡 達臣

 

(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.34 No.4 表紙より)

 

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