- 2017/09/21
Summary
キイロショウジョウバエの行動リズムを制御する中枢機構は脳にあることが明らかになっており,成虫の脳内で約150個の神経細胞(時計細胞)がその役割を担っている。
1日を測る生物時計―概日時計―は,昼夜の環境変化に適応するために存在し,動物では代謝,生理,行動など様々な生物活動に影響を与えている。キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)においては,行動リズムを制御する中枢機構は脳にあることが明らかになっており,成虫の脳内で約150個の神経細胞(時計細胞)がその役割を担っている。時計細胞を可視化するために,Clk856-GAL4/UAS-GFP 系統を用いて,Clk 時計遺伝子の発現細胞にGFP タンパク質(緑色蛍光タンパク質)を発現させ,それを抗GFP 抗体で免疫染色した(緑)。さらに脳全体を,前シナプスに結合する抗Bruchpilot 抗体を用いて染色している(マゼンタ)。Clk 遺伝子はほぼすべての時計細胞で発現しているが,非時計細胞でも発現している。
ショウジョウバエの脳内に約150個もの時計細胞が必要な理由は長らく不明であったが,近年の研究により,それぞれの時計細胞群が機能分化していることが明らかになってきた。温度や光など特定の環境情報に特化した時計細胞群,歩行活動や温度選択など特定の行動リズムに特化した時計細胞群など,役割の異なる複数の時計細胞がネットワークを形成することで,野外の複雑な環境に適応できると予想される。
Cincinnati Children’s Hospital Medical Center 梅崎 勇次郎・岡山大学大学院 吉井 大志
(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.34 No.3 表紙より)