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代謝スケーリングから明らかとなった食う―食われるの関係

  • 2014/3/20 
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Summary

小卵多産の生活史戦略ではどのような個体が生き残るのだろうか? その答えの1つが,成長に伴うエネルギー代謝速度と体サイズの関係から今回,明らかとなった。

   水棲生物の多くは,哺乳類や鳥類などと比べると小さな卵を沢山の数産む小卵多産の生活史戦略を採っている。そして,その中で生き残れる個体はごく僅かである。では,どのような個体が生き残るのだろうか? その答えの1つが,成長に伴うエネルギー代謝速度と体サイズの関係から今回,明らかとなった。トラフグ仔稚魚は,しばしば共食いをする(写真の矢印)。共食いは,成長に伴うエネルギー代謝速度と体重の関係と密接に関係していた。この関係は,基本的には体サイズの増大に伴い単位体重当たりのエネルギー代謝速度は低下するが,特定の発育段階で階段上に相転移(phase shift)していた(図の太線)。共食いの攻撃は代謝フェーズが進んだ個体(図の緑色個体)が行い,攻撃される個体は成長が遅くまだ次の代謝フェーズに移行することができない個体(図の赤色個体)であった。成長が速い個体は早く次の代謝フェーズに移行することができ形態的・行動的変化を伴う高い運動性を獲得し,成長が遅く前の代謝フェーズに留まっている個体よりも生き残りに有利なことが示唆される。この代謝フェーズの転移を引き金にした抗捕食適応は共食いに限らず,異種間の捕食―被食関係(図の黒・赤・緑色個体)においても成り立つものと考えられる。

 生物のエネルギー代謝速度と体サイズの関係は代謝スケーリングと呼ばれ,古くから比較生理学者の興味を惹いてきた。近年,個体レベルであった代謝スケーリング関係を個体群,群集,そして生態系レベルまでスケールアップすることで,比較生理学に留まらず,生態学の分野においても代謝スケーリングは注目を集めている(詳しくは,本誌上の総説をご覧ください)。

長崎大学水産学部 八木 光晴 

九州大学大学院農学研究院附属水産実験所 及川  信 

 

 

(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.31 No.1 表紙より)

 

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