- 2012/2/13
Summary
アメフラシの一種Aplysia californicaは,捕食者に襲われた時に複数の防御物質を含んだ紫色の液体を放出して身を守る。
(Genevieve Anderson 博士の好意による。Permission to use under the GFDL was granted on March 24, 2004.)
アメフラシの一種Aplysia californicaは殻を持たない軟体動物である。この動きが遅くて軟らかい動物は,捕食者に襲われた時に図のように複数の防御物質を含んだ紫色の液体を放出して身を守る。放出物は2種類の分泌物から構成されており,その一つは紫色のインク,もう一つは白色の粘液オパリンである。2つの分泌物液はそれぞれ独立した分泌線から放出される。インクにはアプリジオビオリンとその前駆体であるフィコエリスロビリンを含み防御に働く(図の左側の2つの化合物)。さらにインクにはアミノ酸酸化酵素であるEscapin(エスケイピン)が含まれており,同時に放出される分泌液オパリンに含まれるアミノ酸リシンを酸化しアルファケト酸から始まる互変異性体平衡混合物とともに過酸化水素を生産する(図の中央やや左から右側の化合物群)。室内実験では,これらの化合物はカニ,ロブスター,魚,イソギンチャクなどの捕食者の摂食行動を阻害する。また,インクにはタウリンをはじめとするアミノ酸が含まれており,捕食者の摂食行動を誘起する偽餌効果により攻撃の矛先をそらす。これらの複数の化合物は捕食者の化学感覚に働きかけて摂食行動を混乱させることでA. californica 生きのびる確立を高める。また,インクとオパリンには同種個体の逃避行動を誘起する警報物質も含まれており複数の化合物と複数の作用を持った防御用の液体として働いている。
東京海洋大学海洋科学部 神尾 道也
(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.29 No.1 表紙より)