- 2011/11/11
Summary
チャコウラナメクジは,農地や家庭菜園で非常に頻繁に見られるナメクジであるが,戦後進駐軍とともに日本に侵入し,急速に広まったと考えられている。
チャコウラナメクジは,農地や家庭菜園で非常に頻繁に見られるナメクジであるが,戦後進駐軍とともに日本に侵入し,急速に広まったと考えられている。背中にはカタツムリで言うところの殻が退化した残存器官として,「コウラ」を持つ。大小二対ある触角は優れた嗅覚器官であり,脳にある介在ニューロンの多くも,嗅覚情報処理に寄与していると考えられている。
農業害虫ならではの旺盛な繁殖力のため,飼育は容易である。筆者らの飼育している集団では,閉鎖交配系で20世代以上維持しても,近交弱勢のような現象は認められておらず,安定した繁殖を続けている。90年代までは,アメリカや日本の複数のラボで嗅覚情報処理機構などの神経生理学研究が行われてきたが,現在ではそのほぼ全ての研究者が哺乳類の神経科学へと研究をシフトさせてしまった。ナメクジはますます繁栄を謳歌し,その一方でナメクジ研究者はほぼ絶滅した。現実は皮肉である。
徳島文理大学香川薬学部 松尾 亮太
(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.28 No.3 表紙より)