- 2011/5/3
Summary
巣から飛び出した働き蜂と母女王は,まず母コロニー近くに分蜂蜂球を形成し,新しい巣を建築するのに適した場所の情報を集める。
ミツバチは,春には様々な花から蜜と花粉を集めて急速にコロニーを拡大させる。そして,十分にコロニーが大きくなると,新女王を生産して分蜂(巣分かれ)をする。このときに,コロニーの働き蜂の約半数を引き連れて出て行くのは,それまで産卵をしていた母女王(写真右下)である。巣から飛び出した働き蜂と母女王は,まず母コロニーの近くの木の枝先などに集まって分蜂蜂球(写真左上)を形成し,そこから巣場所探索蜂を派遣して,新しい巣を建築するのに適した場所の情報を集める。巣場所探索蜂は,発見した巣場所候補地の位置を,分蜂蜂球上でダンスを踊ることによって他の仲間に知らせるが,複数の候補地が見つけられた時には,自己組織化的な過程を経て,最も良い巣場所が選ばれることが知られている。セイヨウミツバチは樹洞などの閉鎖空間に営巣するが,入口が小さく,中の容積が比較的大きい空間を,「質」の良い巣場所と認識するようだ。
写真左上は,カキの木に付いたごく小さいサイズの分蜂蜂球。この分蜂蜂球は,幸運なことに地上1.5mほどのところに形成されたので,すぐに回収できたが,高いところにつくられた場合には,回収できずに逃がしてしまうことが多い。分蜂はミツバチの行動の中でも,最もダイナミックなものの一つだが,これによりコロニーの半分を失う恐れがあるので,分蜂させないようにコロニーを維持することは重要な飼育技術のひとつである。
玉川大学脳科学研究所 原野 健一
(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.28 No.1 表紙より)