- 2016/1/25
Summary
2016-2017年度JSCPB会長からのご挨拶です。
2016年の年頭にあたり、新任会長として、日本比較生理生化学会の皆様と共に新春の門出をお慶び申し上げます。
昨年は、吉田将之先生と浮穴和義先生にお骨折りいただき、日本比較生理生化学会と日本比較内分泌学会の合同大会が広島で開かれました。普段の学会の雰囲気とは違った熱気に包まれた大会になったことは参加された皆様の記憶に新しいところと思います。夏には国際比較生理生化学会がポーランドのクラクフで開かれ、国際担当の深田先生の呼びかけで、日本から複数のシンポジウムの企画が採択されて成果を上げ、日本の比較生理生化学のアクティビティーが大いにアピールされたと聞いております。国内外の学会大会における活動だけでなく、今や、日本比較生理生化学会の伝統といってもよい出版事業もまたひとつ、研究者が教える動物実験全3巻という形で残すことができました。これまで、副会長体制の導入、若手育成と国際化、関連研究分野との連携、アウトリーチ活動を目標に掲げて精力的に仕事をされた神崎亮平前会長から尾崎へ会長は交代いたしましたが、これまでに奏功をみた部分に配慮し、これを継承しつつ、この弾みに乗って新たな年をスタートすることにいたしましょう。
思い返せば、1975年に動物生理学シンポジウムとして活動が始まった3年後の1978年から、この日本比較生理生化学会と関わってきました。1973年のフリッシュ、ローレンツ、ティンバーゲンのノーベル賞受賞に刺激され、ヒトだけを中心としない、どの動物にも細やかで鋭いまなざしを注いで学びを引きだす研究分野をこの国にも打ち立てたい、そのために、動物学というだだっぴろい学問領野に浸かっているだけでなく、志に共鳴する研究者どうし集結して緊密に自分の研究を語りあう場を作りあげようとしていた学会設立前夜の熱を頬に感じ、その感覚を記憶している一人かもしれません。
結婚して家庭と研究を上手にやっていけたらいいなと考えていた時分、当歳の娘を連れてつくば大会で発表した時、日本ではまだそういうのは公私混同といわれかねない時世でしたが、「日本比較生理生化学会には安心して参加できる」そういう雰囲気がいち早く生まれた学会でした。そんな経験も含めて、この学会が持っている、来るべき時代を見越したリベラルな懐の深さをことあるごとに実感し、そのような学会の空気の中で一人前の研究者に育てられてきたという自覚があります。そのおかげでか、どんな素晴らしい発見も、研究領野の強化推進も、研究者の所業だと思えば、学会の役目は、まずは、その学会の持つ全雰囲気と活動を以てまっとうな研究者を育てていくことだといっても過言ではないように思っています。
この学会は、途中で日本動物生理学会から日本比較生理生化学会に名称が変わりましたが、初代岩田清二先生から神崎亮平先生まで、10名の会長が先頭に立って牽引し、それぞれに大切な節目をこしらえて学会を発展させてこられました。11代目にしてその系譜の端に立ってみますと、背後に積まれた歴史の重さと、眼前に迫る可能性の広やかさに圧倒されんばかりです。が、まず一歩を踏み出して、日本比較生理生化学会の流れを淀みなく、より好ましい方へ向けていくことを肝に銘じ、一生懸命役目を果たしてまいりたいと思っております。口はばったくはありますが、この機会にいくつか思う処を述べてみます。
沿革について:
先達会員の情熱と努力に敬意を払う意味においても、現会員が所属する学会のなりたちを再認識する上でも、さらに、未来の会員にこの学会を知ってもらうためにも、たかが沿革というなかれ、されど沿革というべきものだと思います。この学会への感謝を込めて、改めて「日本比較生理生化学会の沿革」を記しさだめておきたく思っています。運営について:
高い専門性を保ちつつも閉鎖的にならず、学会員相互の交流や、垣根を超えて国内外の社会へもコミットし続けていける学会をめざし、これをバックアップする学会事務局の形を少しずつでも整えていきたく思います。先々のことも視野に入れ、会員を増やす働きかけは続けながら、一方で、推移に応じた見直しが必要になってくるかもしれません。賞制度の活用について:
この学会には吉田奨励賞と原富之賞、学会賞が設けられ、優れた研究を顕彰する制度が整いました。これをぜひ活用して頂きたい。それぞれにお忙しいのは承知ですが、どうぞ皆様、この方と思ったらどんどん推薦して下さい。受賞された本人だけでなく、周囲にも祝福と元気の波が伝わります。比較生理生化学/動物生理学の推進について:
様々なビッグデータを個人が取得し扱えるようになり、研究スタイルが大いに変化している今日にあっても、オリジナリティーの高い発見は、多様な動物の特徴を見極め、生きる仕組みを見つめる比較生理生化学/動物生理学の分野から生まれてくると思います。そのような研究の芽が力強く伸びるよう認知度を高め、そのようなものの見方が次世代の研究を担う中・高生の中に育まれるよう、応援したいと思います。双方向のコミットメントについて:
各小委員会、大会準備委員会、学会誌などを通じて、会員の皆様のアイデアを活かしたいと思います。積極的な提案を歓迎します。主催行事に加えて、他学会、シンポジウム、講演会等との共催、後援等も、協議のうえ前向きに対応していきます。会員の皆様にはそうやって生まれてくる色々な形の新企画に、無理ない範囲で積極的な協力をお願いすることになると思います。
日常の研究の場においても、その成果を発表する学会の場においても、生物や生物学の多様な面白さを見失わずに、研究と議論を堂々と推し進め、その面白さが自然と若い人達に伝わるような場が大切です。この学会がそういう場として本領を発揮し続けていけるように、科学的な進歩においても会員の拡充においてもなるべく停滞なく健全な姿勢を保ちたい。今の比較生理生化学会の良さは、丁度良い規模の組織のなかに、科学と人の多様性を巧まずして包括できていることでしょう。ただし、厳しい目で見れば、今はかろうじて、ということもできます。現状におもねって高を括ることなく、偏りのないしなやかさを以て、質の良い多様性を培っていきたく思います。
広く多彩な人材を育て続ける学会でありたい。世代の如何を問わず、日本比較生理生化学会の活動に参加し、そこで得た助言、気づき、絆を糧に研究活動を展開していくなか、会員の一人一人がエンジンとなって学会に前向きの変化を与えていくというのが、理想的なかたちではないでしょうか。私がこの学会に対してもってきた認識が間違っていないならば、会員の皆様お一人お一人の知恵と力を結集して、この学会を盛り上げていくことができると信じております。
2016年1月20日
日本比較生理生化学会
会長 尾崎 まみこ